Toward the sky

飛行機に憑りつかれた東大生・“ぐっ✈”のお気持ち表明

東大航空宇宙院試体験記(3) ~専門科目対策~

 こんにちは。航空宇宙M1と化したぐっ✈です。生きています。

 TOEFL記事まで書いたところで卒論地獄に呑まれ、気づいたら自分が入院どころか1つ下の代の院試出願が終わっちゃってました。怖いねェ~

 

 一連の院試対策記事の中で、今回は専門科目試験の出題範囲の勉強としてどんなことをどんな感じでやったか書いていきます。

 先に断っておきますが、私自身が「機械A在学」という毎年一人程度のレアキャラ*1かつ「航空宇宙の専門科目を一部履修済」という外部生とも言い切れない超コーナーケースのため、「こうすると上手く行く」みたいな一般的な法則はこの記事には一切ないと割り切ったうえで読んでください。ここにあるのは、「こういうバックグラウンド・初期条件の人間がこういうことをして結果こうなった」という事実と分析の陳列だけ、という感じでしょうか。ケーススタディになるかすら怪しいですがご了承ください。

 

 

 

院試マスタープラン(?)

↓例年の院試概要・コロナでの変更点=オンライン院試化ざっくりまとめ

ry0803storm.hatenablog.com

工学系研究科から募集要項や専攻入試案内などの各種書類が公開され,こんな感じのとんでもない院試概要が明らかになったのが5月21日頃のことでした。

東大航空宇宙院試体験記(1) ~東大航空宇宙の院試概要:例年と2021年度~ - Toward the sky

 (1)の記事で言及した通り、院試オンライン化や試験科目変更、TOEFL iBTの要求などが明らかになり、院試に向けて動き出したのが5月下旬の頃でした。

 

↓お気持ち表明

ry0803storm.hatenablog.com

そのあともしばらく悩み続けて航空出願を最終的に決心したのが6月末ごろ,オンラインで出願書類を作成したのが7月1日の夜でした。

東大航空宇宙院試体験記(0) ~プロローグ~ - Toward the sky

 そして、(0)の記事で言及した通り、機械工学専攻と航空宇宙工学専攻のどちらを受けるかで散々悩みぬいた挙句航空に出願することを決心したのが6月末でした。

 

 そうなると、1か月以上もの間どこを受験するかも決めないまま対策をしていたことになります。では何をしていたの?という話になりますよね。受ける専攻がわからない以上専門科目は対策のしようがありません。TOEFLのスコアは機械・航空ともに専門科目試験の前に提出しなきゃいけないので後回しにはできないという点、そしてそもそも研究やら授業*2で忙しかったので,まずはTOEFL対策をさっさとやってSpecial Home Edition(自宅受験)を早い段階で片づけて,その後専門科目対策に取り掛かるという流れで行くことにしました。この方針を決めたのがだいたい5月下旬です。まあ実際はさっさと片づけられませんでしたが…。

 

↓いろいろと長引いたTOEFL iBT自宅受験記

ry0803storm.hatenablog.com

 

専門科目の出題範囲解説、そして自分の初期状態

2日目 専門科目(午前):3時間 4分野(流体力学,固体力学,航空宇宙システム学,推進工学)から3分野を選んで解答 専門科目(午後):3時間 4分野(流体力学,固体力学,航空宇宙システム学,推進工学)から3分野を選んで解答

東大航空宇宙院試体験記(1) ~東大航空宇宙の院試概要:例年と2021年度~ - Toward the sky

  (1)の記事でも言及した通り、航空の院試では午前・午後ともに流体力学(以下流体)・固体力学(固体)・航空宇宙システム学(システム)・推進工学(推進)の4科目が出題され,今年に限ってはそれぞれ2科目を選択して解答するということになっていました。例年は3科目選択に対し4科目全ての範囲の勉強をする人が多いようで,実際過去問を見ると確かに解けなさそうな難しい問題はどの科目にも出現していたので「捨て科目」を作るのは危険な試験ということでしょう。今年は2科目とはいえ難度が上がることは目に見えていたので,リスク分散の観点から私も基本的には4科目全体の対策をすることにしました。

 しかし,私はあくまで機械工学科の学生であり,航空宇宙のカリキュラム全体は到底回収しきれないので,いわゆる「四力学」から外れるテーマは一部対策を諦めたところもありました。以下に,航空の院試で何が出されて,そのうちどれを自分が院試勉強開始時点で既習だったかということを整理してみます。

院試の出題科目

扱われる分野

履修科目(機械)

履修科目(航空)

院試対策前の状態

流体

非圧縮性流体力学

流れ学第一(2A)

流れ学第二(3S)

空気力学第一(2A)

まだマシ

圧縮性流体力学

 

空気力学第一(2A)

ジェットエンジン(4S)

怪しい

固体

材料力学

材料力学第一(2A)

(材料力学第二:不可)(3S)

 

嫌い

構造力学

 

航空機構造力学第一(4S)

厳しい

システム

古典制御論

システム制御Ⅰ(2A)

 

怪しい

現代制御論

システム制御Ⅱ(3S)

 

厳しい

航空機力学

 

航空機力学第二(3S)

怪しい

軌道力学

 

 

無理

推進

熱力学

熱工学第一(2A)

環境エネルギーシステム(3A)

ジェットエンジン(4S)

怪しい

機械力学

機械力学(2A)

機械力学第二(3A)

 

まだマシ

(カッコ内の数字は学年,S:夏学期(Sセメスター),A:秋学期(Aセメスター))

 右端についてですが,「無理」<「厳しい」<「怪しい」<「まだマシ」です。結構できないやつ多いですね…(突然の客観視)。大量の履修の陰で各々の分野の理解がおろそかになっている典型的ダメ学生ですね。

 ここから各分野のちょい具体的な内容とか、自分の理解度がどんな感じだったかなど説明していきますが,かなり長くなっているのでお時間のない方は次の大見出しまで飛ばして読んでください(ごめんなさい)。

流体力学

 機械系ならみんな習う機械・材料・熱・流体のいわゆる「四力学」のうち,流体力学はもっとも航空っぽい(?)イメージが強い分野かなあと思います。試験では,例えば流れの中での圧力や速度を求めたり,あるいはそれらを決定する支配方程式を式変形して求めたりする問題などが出されます。機械系の授業では,境界層方程式からポテンシャル流れに至るまで非圧縮性のテーマを一通りさらっており記憶にも多少残ってはいました。機械系は非圧縮メイン*3なんですよね。加えて,2年生で履修した航空宇宙工学科開講の空気力学第一では,非圧縮性の基礎に加えて圧縮性流体も扱っていました。この“空力第一”という授業はかなりすごくて,前期教養が終わって間もない2年生たちへの流体力学イントロダクション的な立ち位置ではありますが,音速の導出や準一次元流れにランキン-ユゴニオ方程式,さらには斜め衝撃波の定式化と圧縮性流体の重要テーマを一気に詰め込んでいくかたちになっています。

 ちなみに「準一次元流れ」は実際の航空機においてわかりやすい形で現れていて,例えば超音速で飛行する戦闘機などのエンジンが可変ノズルをつけている理由はこの準一次元流れを理解するとわかります。ほかのテーマも含めて,気になる方はぜひ圧縮性流体力学についての教科書(図書館に置いてある場合が多いです)の該当する章を読んでみてください。ただ,流体力学は往々にして偏微分方程式絡みの式変形が大変で,数学が苦手な自分はどう式変形をしたらいいのか悩んだりするシーンが多くて問題を解くのが苦手でした。ダメじゃん。

固体力学

材料力学

 四力学のうち最も苦手だったのが材料力学で,これは3年のSセメスターの「材料力学第二」の単位を落とすほどでした。表の右端の列も,ここだけ「嫌い」になっています。材料力学はざっくり説明すると「棒とか板みたいなモノに力を加えた時の変形を調べる」ことなどをやる分野です。中学理科で「バネの伸びがおもりの重さに比例する」だとか,高校物理で弾性力がF=kxだとか習うと思いますが,材料力学の基礎もだいたい同じようなもので「応力とひずみ(変形)が比例する」というところが出発点になります。

 材力の問題にありがちな特徴として,座標の取り方だったり,エグい分数を含む積分計算だったりと立式時の混乱や計算ミスを誘発する要因がてんこ盛りというのがあります。本当にやめてほしいですね。もっとも公式や手法の表面的な理解にとどまっているからこんなことになるのかもしれませんが,根本的な理解もそれはそれは大変なのでどのみち厳しいですね。カスティリアーノの定理ってなに?仮想仕事の原理って仕事してるのかしてないのかわかんないからやめてほしいわ(いちゃもん)。唯一トラス構造(棒の端っこをピンで固定して組み合わせた構造で,棒はバネのようにまっすぐ伸び縮みするだけでぐにゃっと曲がらない)はまだ何とか解けるという感じでした。

構造力学

 航空の院試では,「固体力学」において材料力学と合わせて構造力学も扱われます。材料力学と構造力学という言葉の違いは,一般的には前者が「梁や円筒といった一つの部材を扱う」もので,後者が「部材を複数組み合わせてできた“構造”を扱う」ものであるというふうにされていますが,正直曖昧に見えます。建築や土木系では「材料力学」という言葉が出てくることはなく,機械系が「材料力学」だと思っている梁の曲げ問題などが,建物の骨組みや橋の構造と合わせて「構造力学」という科目で教えられているようです。私が履修した「航空機構造力学第一」では,「薄肉補強構造」という括りで,薄板に補強用の棒を何本もつけたような構造などを対象としていました。

 航空の院試で出てくる「構造力学」は,過去問を見る限り薄肉補強構造のことを言っているということで間違いないかと思います。この薄肉補強構造はまさに旅客機で使われているセミモノコック構造のことで,構造力学第一の授業では旅客機の写真や図面などがたくさん出てきて幸せになりました。式の導出とか計算は全然幸せじゃないけど。材力の上に知識を積み上げる感じなのでわからなさも積み上がっちゃいましたね。

推進工学

熱力学

 残る四力学のうち,熱力学は高校でもやるのでご存じの方も多いのではないでしょうか。気体を加熱したり圧縮したりして「圧力はいまどれくらい?」とか「この時の温度は?」とか問題を出されるやつです。航空宇宙工学専攻らしく(いわゆる熱力学の問題が出るときは)たいていは推進工学の中で,ジェットエンジンと何らかの形で絡めた問題として出ているという印象です。航空の院試で問われる熱力学の知識のうち,機械系の「熱力学第一」で大方の部分を習い,「環境エネルギーシステム」でガスタービンジェットエンジンのサイクルについて軽く触れました。

 加えて,4Sに院試とは関係なく取ったつもりの航空宇宙の「ジェットエンジン」で,それらサイクル論の復習に加えてジェットエンジン特有の損失などの扱いやターボファンエンジンの定式化,さらには圧縮性流体力学の復習までしてしまいました。構造力学もそうだけど,履修科目選びに救われましたね…。

機械力学

 熱力学と同じく推進工学で扱われる機械力学ですが,これは大きく括ると「動く物体」の運動の様子(位置,速度,座標…)を考える分野です。運動方程式をがんばって解くという点ではTHE力学って感じですね(?)。狭義の機械力学では,解析力学も使ったりして剛体の運動を調べるという感じですが,院試の推進工学で出てくるのはもっぱら「振動論」です。玉にバネがつながってびよんびよんしてそうな問題がテストに出てきて嫌な思いをしたことのある方も多いでしょう。航空の院試でも似たようなのが出てきます。しかも計算はたいてい死ぬほどめんどくさいです。私は,機械系の「機械力学」で振動以外の部分を,「機械力学第二」で振動論を履修済みでした。

 ところで,振動と推進工学って何の関係があるの?と思われる方もいるかもしれませんが,けっこう関係あります。飛行機の推進って要するにエンジンのことですが,飛行機に使われるエンジンはだいたいがジェットエンジンか,そうでなければ自動車みたいなレシプロエンジンです。レシプロエンジンはシリンダーの中を重いピストンが上下に往復運動するので当然振動が発生しますよね。それに対してジェットエンジンはただ軸が回転するだけで一見振動は起こらなさそうに見えますが,実在する回転軸には必ず重心と軸の中心のズレが生じており,これが大きいと特定の回転速度で激しく振動することがあります。気になる方は「危険速度」でぜひググってみてください。ジェットエンジンは超高速で回転するのでこの重心のズレに対して非常にシビアな対応が必要で,製造や整備の現場ではとても繊細な調整がなされているそうです。見たことがある方もいるかと思いますが,エンジンのファンブレードには番号が手書きで書いてあることがあります。あれは,1基1基のエンジンの軸のズレに合わせてブレード1枚ごとに微妙に重さを変えておき,全部を正しい位置に取り付けることでエンジンの軸系全体としてバランスを取るために行われているものだと聞いたことがあります(情報の出どころは忘れました,間違っていたらごめんなさい)。こういうふうにたまに物理と実際の飛行機が結びつく瞬間があるのが,勉強する身としては楽しいし嬉しいですね。

航空宇宙システム学

 だいぶ脱線してしまいましたが,航空の院試は四力学だけでは完結しません。「航空宇宙システム学」という名前のつかみどころのなさの通り(失礼),古典・現代制御論,航空機力学,そして宇宙機の軌道力学,さらには四力学の諸分野などまで入ってくることもある総合格闘技みたいな科目が航空の院試には存在しています。

古典・現代制御論

 このうち,制御論というのは数学の応用で,「何かを制御=思い通りにコントロールすること」に関する分野です。「制御」といってもいろいろありますが,例えば「フィードバック制御」は授業や問題でもよく出てくる上に実用上も重要なテーマの一つです。聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。制御論をがんばると,例えばセグウェイを倒さずに走らせたり,ロボットを歩かせたり,あるいはお風呂を適温にキープしたりできます。全くまとまりがありませんが,要はそれくらい適用範囲が広いのが制御論ということです(適当)。航空宇宙的なテーマだと,自動操縦とか衛星の誘導などが挙げられそうですね。院試では,教科書に載っていそうな所謂“普通の問題”が出ることもあれば,飛行機や衛星が絡むときもあるという感じです。

 古典制御論ではラプラス変換を使い,現代制御論では行列による状態方程式表現というものを使うのが特徴です。両方とも,微分方程式で表される現象を,微分方程式を回避して扱うための道具です。自分は機械系で古典制御論を「システム制御Ⅰ」で,現代制御論を「システム制御Ⅱ」で習いましたが,両方ともキツすぎて期末試験だけギリギリで何とかして終わりにしてしまいました。特に現代論はもともと線形代数がダメなせいで,行列の取り扱いが無理になってしまいほぼ全部わからないというような状態でした。さらに,履修してからだいぶ時間が経過してしまっているので,そこからさらに忘れてしまっているという何重にも危機的な状況です。

“飛行力学”

 航空機力学は,航空機の「剛体としての運動」を扱う科目です。飛行機がどういう軌道を通って移動し,その間に機体の姿勢はどう変化していくかということを,運動方程式などを使って表現していく感じですね。院試で出される場合は,立てた運動方程式制御論と合わせて使っていく感じの問題設定が多いでしょうか。これに関して扱う授業は,東大であれば航空宇宙工学科の「航空機力学第二」と「航空機力学第三」しかないです。私は第二を履修しましたが,まず各種座標やオイラー角を定義し迎角などが出てくるまでのあたりを,文字の定義が若干あやふやなままやり過ごしてしまいました。そうしたら安定微係数あたりを定義しまくるあたりでかなりついて行けなくなり,テストはかろうじて何とかなったもののフゴイドモードの導出などは「???」という状態のままで終わってしまいました。マスターすれば楽しいんだろうなあ…(遠い目)ところで,「航空機力学」でググると必ずといっていいほど「航空力学」についての本とかが出てくるんですが,あれは見た感じ実際に操縦している人たちが使う言葉のようで,内容も我々が思っている「航空機力学」とは何か違うみたいなんですよね…。多分向こうも我々工学屋の方を眺めながら「航空機力学って何だろう…」って言ってるんじゃないでしょうか(適当)。

 そして,軌道力学は人工衛星といった宇宙機の宇宙空間での運動を考える科目ですが,これに関しては当然機械系の授業では扱われないし,自分も興味がないしで触れたことすらありませんでした。何ならこの記事を書いている今も触れていません(オイ)。過去問を見ても「あ,えいせいだ~(語彙力)」程度の反応しかできず,高校物理の範囲を超えることには全く手出しできません。大気圏内の翼が生えたものにしか興味が湧かないクソオタクであることが完全にバレてしまいましたね…。ただ,宇宙機関連でもロケット方程式(ツィオルコフスキー方程式)に関してはググって何とかしました。アレはシステム以外でも出かねないので…。

 

対専門科目決戦計画

 ここまで長くなりましたが,こうした現状と各科目・分野の内容を把握したうえで,航空宇宙の先輩方とも相談しつつ,以下のような教科書・参考書類の布陣で勉強を進めていくことにしました。

 

出題科目

分野

対策前の状態

使用した教材
(読む用)

使用した教材
(演習用)

流体

非圧縮性流体力学

まだマシ

教科書:JSME「流体力学

教科書:「空気力学入門」

機械系大学院への四力問題精選

院試過去問(航空宇宙工学専攻専門科目+数学(工学系研究科一般教育科目))

圧縮性流体力学

怪しい

教科書:松尾一泰「圧縮性流体力学

教科書:「空気力学入門」

中部大学レジュメ

ノート・資料類

機械系大学院への四力問題精選

固体

材料力学

嫌い

機械系Webテキスト

機械系大学院への四力問題精選

構造力学

厳しい

ノート・資料類

 

システム

古典制御論

怪しい

教科書:吉川恒夫「古典制御論

現代制御論

厳しい

教科書:吉川・井村「現代制御論

航空機力学

怪しい

教科書:加藤寛一郎「航空機力学入門」

ノート・資料類

 

軌道力学

無理

 

 

推進

熱力学

怪しい

教科書:JSME「熱力学」

ノート・資料類

機械系大学院への四力問題精選

機械力学

まだマシ

ノート・資料類

機械系大学院への四力問題精選

(表中の「ノート・資料類」はそれまで自身が履修した各科目の中でとったノートであったり,授業内で配布された資料です。)

 

 「読む用」の教材のうち,流体力学と熱力学の教科書として紹介している「JSMEテキストシリーズ」は,どの大学の機械系学生でも見たことがあるものではないでしょうか。日本機械学会(JSME)が出しているシリーズで,航空よりかは機械工学科のカリキュラムに最適化されているという印象です。サイズがデカくて見やすいしわかりやすいのは大きなメリットですが,流体力学に関してはどうしても圧縮性まわりが不足しがちでした。

 

 “航空チック”な流体力学の教科書といえば航空宇宙工学テキストシリーズの「空気力学入門」,空気力学第一の指定教科書にもなっていました。著者も航空の先生です。授業と同様に流体力学の導入部分から圧縮性さらにはポテンシャル流れを用いた翼理論まで1冊の中で言及されています。これを読めば院試の流体力学で出がちなテーマや現象のイメージを大まかに掴むことができるんじゃないかと思います。ただ,やはり「入門」なので非圧縮・圧縮ともに定式化や厳密な理論展開が不足している感じもありました。

 私の場合,非圧縮のところはJSMEを使えたので問題にならなかったし,圧縮性の厳密な議論は授業でとったノートに書いてあったのである程度何とかなりました。同じシリーズで粘性流体・圧縮性流体と航空機力学についての本も出ていますので,これらを組み合わせて使うのもいいかもしれません。

 そして,圧縮性流体の教科書としては定番らしい「圧縮性流体力学―内部流れの理論と解析」(著:松尾一泰,オーム社)ですが,これは私の場合必要に応じて図書館から借りてきて対応しました。というのも,めちゃめちゃ詳しくて分厚い上に,書店に売ってなかったりAmazonで高かったりしたんですね。決してわかりづらいということはなく,むしろ丁寧に段階を踏んで式や論理を展開していくので,問題や他の教科書での不明点があったらほぼ確で解決するほどです。院試が終わった後のこのタイミングでなんと第2版が出たらしく,もし圧縮性流体の教科書を探しているのであれば「買い」だと思います。非圧縮の教科書は別に用意する必要はありますが。

 さらに,ネットの海から偶然見つけた中部大学の圧縮性流体力学の授業資料[1]にもお世話になりました。こちらは松尾圧縮性流体よりは扱われている事項が若干少ないですが,それよりもさらに丁寧な説明が行われており,問題演習中に関係式導出で泥沼にハマってしまったときに見てみたらなんとそのやり方が書いてあった,みたいなことが何回かありました。本当に信じられないくらい丁寧で,式変形でどの文字を消去するみたいなことまで書いてある部分もあります。ありがたい話し!

 

 材力の「機械系Webテキスト」というのは,我らが機械工学科の授業である材料力学第一・第二で使われる教科書代わりのPDFファイルです。全部で200ページ以上あり,応力とひずみの定義から疲労に至るまでおよそ「材料力学」と呼ばれるものが全て網羅された凄まじいボリュームのものです。今までは当該科目を担当する教員の研究室Webサイトで誰でもダウンロードできる状態になっていましたが,オンライン授業に伴い資料配布を学内システム経由に切り替えたためか現在はリンク切れとなっているようです。

 

 「航空機力学入門」(著:加藤寛一郎東京大学出版)は,航空機力学の教科書としては現状数少ない選択肢の一つで,これは航空機力学第二の授業で教科書指定されていました。もっとも,第二の授業では縦の安定性までしかやらなかったので,教科書の半分ほどの内容しか習っていませんでした。そのうえ,授業と比べて教科書に載っている式の数が例によってめちゃくちゃ多く,基本的には授業ノートや資料と組み合わせて辞書みたいな感じで使っていました。まさに「読む用」という感じですね。

 

 古典制御論と現代制御論は,機械系のシステム制御Ⅰ・Ⅱで指定されていた教科書である「古典制御論」(著:吉川恒夫,コロナ社)と「現代制御論」(著:吉川恒夫・井村順一コロナ社)を読んで内容を改めて頭に叩き込みつつ,前半の章(古典なら安定性あたり,現代ならオブザーバあたりまで)の演習問題を解くことにしました。もともとは壊滅的な理解度だったところから,システム学で出てくる制御論の“教科書っぽい問題”でちゃんと点を取りに行けるようになるところまで仕上げたいという目論見ですね。

 

 「読む用」教材に関しては,以上のような感じで多彩なものをそろえました。しかし,演習用の教材は至ってシンプルな構成で,①古典・現代制御論は上述の通り教科書演習問題で院試に対応できるようにする②四力学は「四力精選」をやる③あとは基本的に過去問ベースで演習する,という感じです。

 

 「機械系大学院への四力問題精選」(編:藤川重雄,培風館),通称「四力精選」は“機械系の院試専用問題集”という(たぶん)唯一無二の存在で,機械系の院試では必ず全員やると言っていいほどの超ド定番問題集です。航空でも結構な割合の人が手を出すようですが,やはり航空ではなく機械に最適化された内容になっているという印象です。航空では出にくいタイプの問題や単純すぎる問題なども多くある上に,「航空で出がちなので演習すべきだけどこれには載っていない」というような問題も多くあるので,解くべき問題の取捨選択やリソース配分が大事かなと思います。全部で130問ほど載っており,解答解説もちゃんとつけられています。非常に誤植が多いことで有名で,有志からの訂正情報をまとめたWebサイトが存在しているほどです[2]。使用時にはこのサイトを常に参照できるようにしておくことをおすすめします。

 

 実は,数学の問題集もAmazonで調達していて「工学系のための応用数学」(著:市村正也,森北出版)を選んだのですが,いざ開いてみたら過去問に対してやや簡単すぎる問題しかなかったり,出題範囲をカバーしきれていなかったりといった印象を受けたので結局全く手を付けないまま終わってしまいました。数学は軽く過去問演習+教科書類参照に留めることにしました。

 

 あとは過去問過学習!w(死亡フラグ)なんだかんだ言って,院試問題を解けるようにするためには院試問題で練習するのがいちばん良いんじゃないかなあと思います。例年通りの出題傾向であればの話ですが。今回は先述の通り,一般教育科目の数学が消えたりして傾向が変わることも予想されましたが,内部生を含めほかの人もおそらく過去問ベースで対策しているのだろうという見立てで,今回の院試もとりあえず専門科目の過去問をまともに解けるようにすることを目安に勉強することにしました。俺がダメなときはみんなもダメだから大丈夫!w(またも死亡フラグ

 TOEFLが終わった7月下旬から本番までのちょうど1か月で,上記の「読む用」教材に目を通したうえで演習用教材を一周,過去問に関しては二周ぐらいしたいという計画でした。ここで勘のいい読者の皆様はもうお気づきだとは思います。

 

華麗すぎるフラグ回収

 そう,計画通り終わるわけがないんです。

 

 計画していた量をさばききるのに必要と思われた概算総学習時間は約300時間。1日10時間の勉強を毎日休まずやってようやく終わるかどうかという感じでした。カツカツの計画とか最早そういう次元ではないですね。勉強が嫌いな私は当然こんな耐久ゲーを実行できるわけがなく,8月上旬は多くても1日6時間程度,平均4~5時間という感じでした。いよいよ危機感を覚えて勉強時間を伸ばそうとした中旬以降は,8~9時間勉強する日と,そのせいで疲れ果てて4~5時間しか持たない日が交互に来るみたいな状態でした。

 サッカー部時代からの体力面でのアドバンテージが多少あった大学受験の時と比較すると,コロナ禍での大幅な外出減により長時間学習に耐えられる持久力が本当になくなってしまったというのがまず考えられる要因の一つです。何時間か問題解いただけで本当に疲労困憊して何も手につかなくなってしまうんですよね。加えて,家ではあまり集中して自習できないタイプの人間なので図書館に行って勉強するようにしていたのですが,体力不足による絶起と夏休み特有の開館時間短縮の組み合わせによって滞在時間が短くなりがちだったという事情もあります。規則正しい生活,大事(戒め)。

 

 さらに,約300時間という勉強量の概算も甘かったことが露呈しました。特に過去問の専門科目で,午前・午後(本来の試験時間は各3時間)合わせて1年分を10時間で進めるということで試算していたのが,実際はその倍くらいまで膨れ上がる回もありました。前提知識が欠けていて手を付けられない問題があって教科書まで立ち戻って再復習するケースや,式変形が全く思いつかなかったりして時間を浪費するケース,逆に微妙にできそうでできない問題で計算に行き詰まるケースなどが多々あり,非常に手を焼きました。

 特に、過去問は解答が手元に存在しない状態でやらなければならないので,大学受験みたいに「悩んでも分からなかったら解答解説を見る」というのができず苦しめられました。結局,過去問は専門科目・数学ともに各年度2周するはずが,試験直前までかかって1周終えるのがやっとでした。しかも,年度によって/科目によってはほとんど自力で解けない問題も残ったままという状態でした。
 ただ,解答があれば万事解決というわけでもなく,四力精選や制御論の演習問題をやっている時に,計算結果が解答解説と何故か違うけど自分がどこで間違えているのかがいくら探しても見つからないといった事案も多発しました。ほんっとうに複雑な式の取り扱いに弱いんですよね。単純に想定より計算が重くて1問あたりに費やす時間が伸びたこともあり,制御論は当初予定の7割くらいの進捗にとどまりました。四力精選に至っては,材力のトラスの問題は全部手を付けたものの8月中旬時点では15問程度しか終わっておらず,その時の残りの100問以上から絞り込んだうちの20問程度でさえ半分くらいしか手を付けられなかったという惨状でした。進捗をスプレッドシートに記録していたのですが,下のスクショのようなひどい有様です。

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カスと化した進捗状況

 

 もう何もかも上手く行かないような状況だったので,連日ツイッターでクソツイを大量に発射したり,Z会の音MADを見まくったり,さらには図書館閉館の腹いせにそのままサイクリングに出かけてしまうなど順調に狂いながら日々を過ごしていました。何とか狂いを修正していこうと,ラーメンの摂取量を増やしたり,松岡修造のクッソ熱い動画を見まくったり,「落ちませんように」とお願いしに行くために羽田まで出向いて航空神社にお参りするなどもしました。こういう精神的なところの準備ぐらいしか出来ることがないですからね(勉強しろ)。

 

 案の定クッソ長くなってしまいましたが、こんな感じで勉強を進めてきましたということでご査収ください。次の記事では当日体験談を書くつもりでしたが諸々の事情により立ち消えになるかもしれません...。

 今年以降の受験生のみなさんにおかれましてはぜひとも余裕ある試験対策を頑張っていただければと思います。陰ながら応援しています!

 

 

[1]https://www3.chubu.ac.jp/documents/faculty/nakamura_yoshiaki/content/626/626_59b7fd02e2c6d1589bfbbacd56af6678.pdf

[2] https://seesaawiki.jp/yonriki/

*1:先輩方曰く一つ上とそのもう一つ上の年度も一人受けていたらしいが、逆に毎年一人コンスタントに受験しているというのがちょっと驚き

*2:4Sセメスターでは機械系で週4コマに加え航空の「ジェットエンジン」と「航空機構造力学第一」の計6コマを履修

*3:4Sセメスターの「熱流体工学」で圧縮性流体が扱われるようだが,学科ほぼ全員が履修するというわけではなく,筆者も履修していない