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飛行機に憑りつかれた東大生・“ぐっ✈”のお気持ち表明

東大航空宇宙院試体験記(1) ~東大航空宇宙の院試概要:例年と2021年度~

 こんにちは。ぐっ✈です。

 

 私は2021年度の東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻の修士課程入学試験を受験しました。

 この記事では試験の方式や科目・出題範囲,そしてコロナ禍を受けての「オンライン院試」についても書いていきます。

 

前回の記事↓

ry0803storm.hatenablog.com

 

 

 

航空院試の概要

 航空宇宙工学専攻の院試では,例年は以下のような試験が課されていたようです。

  • 2日目
    • 専門科目(午前):3時間
      4分野(流体力学,固体力学,航空宇宙システム学,推進工学)から3分野を選んで解答
    • 専門科目(午後):3時間
      4分野(流体力学,固体力学,航空宇宙システム学,推進工学)から3分野を選んで解答

 TOEFL ITPはリーディング・リスニング・文法問題が課されるマークシート式試験で,スコアは当該の院試でのみ有効となるそうです。私は受けていないので詳細はよくわからないです。

 数学は研究科Webサイトに過去問がたくさん載っているのでそれを見ていただくのが早いでしょう。微分方程式線形代数複素解析あたりはいずれも理系(特に理学部・工学部)の大学1年生〜3年生の授業でめちゃくちゃやるところですね。

 主戦場(?)の専門科目ですが,なかなか特徴的な試験となっています。以下の表で,各分野について専攻入試案内(2021年度のもの)の内容を参考にしつつ少し整理してみたいと思います。

流体力学

流体力学

いわゆる「非圧縮性流体」
流体についての基礎知識・定性的議論,簡単なナビエ-ストークス方程式,境界層,ポテンシャル流れなど

高速空気力学

いわゆる「圧縮性流体」
エントロピー流れ,ノズル,垂直衝撃波・ランキン-ユゴニオ方程式,斜め衝撃波など

固体力学

材料力学

トラス構造,はりの曲げ問題,薄肉円筒,座屈など

構造力学

薄肉補強構造など

航空宇宙システム学

飛行力学

航空機力学,軌道力学(宇宙機)など

制御学

古典制御論,現代制御論

推進工学

熱力学

ブレイトンサイクル等サイクル論,ガスタービンジェットエンジン各論など,ロケットエンジン

機械力学

振動論,動力学

 左端の列が選択問題の分野の括りで,右側に書いてあるのがその内容です。太字は専攻入試案内に記載の出題範囲,細字で書いているのはその科目の中で私が主要・頻出だと思うテーマ例です。また,右側の枠が点線で区切られているところは,「午前で一方が出ると午後ではもう一方が出題される」ことが多いと思われるところです。例えば,流体力学(午前)が圧縮性であれば,流体力学(午後)は非圧縮性のネタが扱われる,といった感じです。もっとも,全科目の出題が必ず表の範囲内に収まるというわけでもなく,割と毎年のようにここに載っていない分野が出る科目があったり,ある科目で扱われる分野が別の科目に出張したり(固体力学でロケットを飛ばすときのことを考えたり)すると思ったほうがいいでしょう。

  “THE機械工学科”みたいな四力学+設計生産の教育にどっぷりと浸かってきた身からすると,航空の院試は四力+制御ベースではあり,それらの科目が大事ではあるもののやはり“航空チューンド”な感じではあるかなあと思います。圧縮性流体とか宇宙機制御とかジェットエンジンとか。

  以上の英語・数学・専門科目の合計で1500点満点,年度によって上下しますが750点前後が例年の合格ラインとなるようです。

  そして,一般的な院試と(たぶん)大きく異なる点として,東大航空では出願時に研究室・指導教員を申告しません。院試合否は完全に試験の点数の専攻内での相対順位によってのみ決まるようで,研究室配属は合格発表が終わってから希望調査を取ったうえで決定されます。

コロナ禍中,完全オンライン化

 さて,上でつらつらと“例年の”院試について書いてきましたが,私が受けた2021年度入学試験は正直まるで別のものと化していました。何を隠そう,新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて工学系研究科が今年の院試の完全オンライン化を決定したのです。要は,受験生が一人で自室にこもった上でWebカメラに見守られている状態で試験を実施するということですね。ヤバすぎんだろ…。航空宇宙の試験の変更後の概要を専攻入試案内の内容をもとにまとめると,こんな感じです。

  • 英語
    例年試験場で実施されるTOEFL ITPが行われないので,事前にTOEFL iBTの受験を済ませてスコアを提出し,それを英語の成績とする。
  • 数学
    例年行われる工学系共通の一般科目試験を課さない(専門科目の設問中に,一般科目試験の数学と同レベルの能力が必要となる問題を含める)。
  • 専門科目(午前・午後)
    午前・午後とも,流体力学・固体力学・航空宇宙システム学・推進工学の合計4科目から2科目(例年3科目)を選択し解答。解答時間は午前・午後それぞれ2時間(例年3時間)。
    資料等の持ち込みは可能とし、教科書に書かれているような個別の知識を問うのではなく、総合的に議論するような課題を出す。設問中に,一般科目試験の数学と同レベルの能力が必要となる問題を含める。

 …変わり果ててしまいましたね。数学の試験は実質消失,専門科目は3科目選択が2科目選択なので得点戦略がだいぶ変わってきてしまいます。「一般科目試験の数学と同レベルの能力が必要となる問題」が力学メインの専門科目にどういう形で入ってくるのかもわからないし,何より「資料等の持ち込みは可能」というのが衝撃的すぎます。言ってしまえば今までは「教科書に書いてあることを応用できるようになろうね~」だったのが「教科書を読んでもいいけど,それで解けるかな?」に変わってしまったわけで,いったいどんな難問が出題されるのか分かったものではありません。デデドン!(絶望)工学系研究科から募集要項や専攻入試案内などの各種書類が公開され,こんな感じのとんでもない院試概要が明らかになったのが5月21日頃のことでした。

 

次回:(2)英語:TOEFL iBT“自宅受験”の記録に続く!

 

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