Toward the sky

飛行機に憑りつかれた東大生・“ぐっ✈”のお気持ち表明

東大航空宇宙院試体験記(2) ~英語:TOEFL iBT“自宅受験”の記録~ [機械系 Advent Calendar 2020 参加記事]

 こんにちは。機械A4年のぐっ✈です。

 

 この記事は,機械系 Advent Calendar 2020に参加しています。内容を直前で変えた上にナチュラルに遅れてしまいごめんなさい...(懺悔)

adventar.org

 

 前回の記事では,航空の院試の例年の概要およびコロナ禍を受けての“オンライン院試”化に伴う変更点について概説しました。

ry0803storm.hatenablog.com

※追記:今回の記事は“航空宇宙院試体験記”の一環ということになっていますが,機械工学専攻を含む工学系研究科の他専攻でもTOEFLに関して同様の措置を講じたところがあったため「機械系」アドベントカレンダー参加記事とさせていただいていますお許しください。本記事に書いてある内容に限っては,“航空の院試について”ではなく“(機械系を含む)工学系の院試について”さらには一般にTOEFLやその自宅受験についても通用するお話ということで読んでいただければと思います。

 

 

TOEFLまでも自宅受験

 ”オンライン院試”では独立した数学の試験の消失・専門科目の解答方法変更とともに,英語もマークシート試験のTOEFL ITPからTOEFL iBTに変更となりました。ITPとiBTという名前の響きは似ていますが,中身はまるで別物です。iBTはいわゆる4技能型の試験で,リーディング・リスニングのみならずライティングさらにはスピーキングまで,それぞれ30点ずつの合計120点満点で評価されます。“Internet-Based Testing”の名の通り,これら4技能を測る問題をコンピュータを使って解答していきます。解答したデータはネットで送られて採点され,スコアもオンラインで送られてきます。スコアに関して,ITP(Institutional Testing Program)は実施団体(例年の院試なら東大工学系研究科)内部のみで有効ですが,iBTのスコアはTOEICみたいに英語力を証明する資格として対外的に通用します。本来の用途としてはアメリカ留学する学生の英語力を測定するための試験で,かなりアカデミックやキャンパスでのコミュニケーションに重点が置かれています。4技能なので当然しんどいです。

 そんなiBTですが,工学系研究科が「今年はITPをやらないから各自でiBTのスコアを院試までに用意しろ」とのお達しを出したのが(確か)5月のこと。通常iBTはテストセンター(試験会場)に設置されたパソコンで受験を行いますが,あんな時期だったので当然どこのテストセンターも閉まっていました。そこで受験することになるのがTOEFL iBT Special Home Edition(SHE),つまり自宅受験です。自前のパソコンに専用のソフトウェアを入れて,遠隔での試験監督の監視の下受験するのですが,この受験前の一連の準備が私の場合死ぬほど大変でした(詳しくは後述します)。ただ,他の受験者がいて騒がしい会場での受験と比べると,静かな環境で集中できる上に慣れた自前のパソコンを使って受験できるというのは自宅受験ならではのメリットでしょうか。コロナ禍のもとで特別に始まったプログラムですが,なんとこの記事を書いている今(2020年11月6日)2021年以降も継続することが決定したらしく,名前もSpecialが取れてTOEFL iBT Home Editionに変わってしまいました。気になる方は公式サイトを覗いてみてはいかがでしょうか。

 ちなみに(Special)Home Editionの受験料は通常のTOEFL iBTと同じく235ドルです。たっか♡マジで勘弁してくれ♡

www.toefl-ibt.jp

 iBT Home Editionは自宅で受験するという特性上,通常の(会場で受験する)iBTとはいくつか異なる点や注意すべき点があります。とはいえ,テストの核心的な部分の内容やシステムは両者ともに完全に同一(のはず)です。違いが際立っている点は,主に申し込みや準備などです。上のリンク先にPCのシステム要件などをはじめとして様々な事項が丁寧に解説されていますが,特に会場受験と大きく異なると思われる点を抜粋して書いておくと

  • スピーカー:ヘッドセット,イヤホンは使用不可
  • マイク:試験監督者との通信には、ヘッドセットの一部ではない内部または外部のマイクを使用

そして,

  • ノートテイキングは以下のいずれかを使用して行うこと

    • 小さな卓上用ホワイトボード(1枚)と消去可能なマーカー(1本)※鉛筆・ペンの使用は不可

    • 透明なシートプロテクターに入れた紙(1枚)と消去可能なマーカー(1本)

という点でしょうか。

 会場ではヘッドセットを使うのにHome Editionでは禁止ということで,耳に何もつけていない(=受験者が外部からテスト中に何も聞いていない)ことを保証した上でテストを実施するための措置と思われます。

 ノートテイキングに関しては会場だと紙が渡されてそれを使用し,テスト終了後に回収されるのでしょう。自宅受験で記録が残らないようにするとなるとテスト終了後に完全に消せる必要があり,それでこのようなものを要求していると考えられます。「透明なシートプロテクターに入れた紙」(英文:a blank sheet of paper with transparent sheet protector)って何やねんとは思いましたが,どうやらクリアファイルに白紙を挟んでおいてその上からペンで書くことを言ってるらしいですね…。めっちゃ書きづらそう…。ということで,買いました。クソデカホワイトボードくんを。

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クソデカホワイトボードくん:今では落書き帳と化している

対iBT決戦計画

 5月下旬。工学系からもろもろの書面による案内が出てきたところでSHEの受験申込と教材調達を完了させました。用意した教材と,それらを使った勉強の当初予定はこんな感じでした。

  • TOEFLテスト英単語3800(旺文社):期間中毎日少しずつ,本番までにRANK1~3を2周
  • The Official Guide to the TOEFL Test:5月下旬〜6月上旬にChapter2~5と10を,6月中旬〜試験直前にPractice Set4回分を完了させる
  • TOEFLテスト集中攻略スピーキング(テイエス企画):本番までに1周
  • TOEFL Practice Online:試験1週間前に1回

→6/23に本番受験,目標点数は最低80,現実的には90後半,あわよくば100?

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受験生,本を積んで写真撮ってツイートしがち

 単語帳は通称「3800」,TOEFL対策であれば比較的よく使われるものじゃないかと思います。3800語ってクッソ多いけどこれ本番受験前に全範囲ちゃんと仕上げられる人ってどれくらいいるんですかね…?

www.obunsha.co.jp

 The Official Guideは,ETSつまりTOEFLの実施団体が公式に出している問題集です。Reading/Listening/Speaking/Writingの各セクションの出題形式のめちゃくちゃ丁寧な解説・例題(Chapter2~5)に加えて,本番のような形式の演習問題(Practice Set)4回分が紙面(Chapter6~9)およびDVD-ROM内のアプリケーションに用意されています。特にアプリケーション版のPractice Setが本番っぽい演習として有能で,iBTの形式に慣れるにはこれを一通りやるのが最も確実だと思います。なお,当たり前かもしれませんが全部英語で書いてあります。僕の場合,英語の勉強のために英語の勉強が必要になりました(白目)。あと,本の厚みが尋常ではないです。死ぬほど重くてかさばるので,家から持ち出して勉強する用途にはたぶん向かないと思います(その点から考えてもアプリケーション版のPractice Setをノーパソに入れて使うのが理想的)。

 私が買ったのはFifth Editionでしたが,私が院試を受け終わった直後にSixth Editionなるものが発売されたようです。Practice SetがDVD-ROM配布じゃなくてダウンロードコンテンツになったらしいですね。もっと早く出せや

www.ciee-onlineshop.jp

 これだけだとSpeakingは不安がある(ほかの3技能は大学受験である程度鍛えてある)と思ったので買ったのがTOEFLテスト集中攻略スピーキングです。こちらはちゃんと日本語でいろいろ解説が書いてあり,段階を踏んで学習を進めていきスピーキング能力を高めていく感じになっています。

tofl.jp

 TOEFL Practice Onlineというのは,これもETSが提供している本番形式の模試となります。こちらはPCをインターネットに接続しての受験となり,ReadingとListeningは4択なので自動的に採点され,SpeakingとWritingに関してはETS側でAIを使っておおよその点数が出されるようになっています(本番は人間の採点者複数人とAIによる評価項目を合わせてスコアを決定)。日本から正規版を購入すると,1回あたり29ドルです。たっか♡(キレ)まあこういうところでケチって本番突入した結果もう一回235ドル払って受けなおすよりかはマシだと思い購入しちゃいました。中国TPO?よいこのみんなはちゃんとお金払って正規版やろうね!(適当)

www.ets.org

計画は粉砕されるためにある

 さて,予定通り勉強が進んでくれれば問題はないのですが,実際は5月6月と本当に勉強が手につかず,研究と授業とTwitterと家事(この頃は自炊もよくしていた)に時間を溶かす毎日でした。当たり前のように6/23予定だった試験を7/22に延期して再予約(Special Home Editionは受験日時を比較的自由に変更可能),6月末から残り1ヶ月の追い込まれた状態でようやく少しずつ勉強を開始しました。もっとも,「塾バイトで大学受験英語には継続的に触れてるしReadingは何とかなるやろ」「ボーイングとかエアバスの授業[1]が英語やし,一般東大生よりはどう考えてもたくさん英語には触れてるわ」「そういやコロナ前には接客バイトで日常的に英語で対応してたやん,行けるんちゃう?」などとこの時は思っていました。

 とはいえ忙しさは変わらず,特に7/10に卒論中間試問があったのでその準備も加わり,TOEFLにかけられる時間はせいぜい1日3時間が限度でした。

 そうなると,当初予定していた勉強をすべて終わらせるなんてことは当然できません。本番を10日後に控えた7月中旬の時点で,単語帳は1周目が3分の2ほど終わったところ,The Official GuideはChapter2~5が全部とPractice Setが4回中2回,集中攻略スピーキングに至っては最初の数ページのみと悲惨な状態でした。夏休みの宿題はまじめにやっても割と最後に色々残してしまうタイプですね(?)。

 そのあとすぐTOEFL Practice Onlineを受験し,スコアをいったん確認してやることを極限まで取捨選択してみようということにしました。その時のスコアが120点中の85(Reading:28 / Listening:22 / Speaking:15 / Writing:20),まあ最低目標は超えているけどもSpeakingが…という感じでした。その前後にやったPractice Setでもだいたい似たような合計スコア,かつReadingとListeningは回による得点の上下が大きくて若干安定しないという感じでした。Speakingは酷いが正直どうしようもないし,むしろ伸びしろがありそうに見えたのはWritingなので,Writingを伸ばす練習をしつつ他の3セクションは自己ベストを維持すべくケアをしていくという方針にしました。

 Writingに関して詳細な分析をすると,機械採点で文脈とかを見られないために単純に語彙の単純さと語数の足りなさで点数が伸び悩んでいるのではないかという結論に至りました。ここを埋めるために,

  • いい感じの語彙をひねり出せるようにすべく,脳内に「英作文で使える単語・フレーズ」みたいなものを叩き込み,それらを文章中にねじ込むことを意識する
  • メモ用ホワイトボードをフル活用し,日本語で文章構造メモを3~5分ぐらいで仕込んでから英文生成を開始する一連の流れをマスターする

という2つの訓練をしました。まあ前者はただの付け焼刃ですが…。とはいえ有効なものは取り入れていくしかないですからね。やりました。

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ホワイトボードくんフル活用の構え

 ところが,Writingの訓練を進めていくうちにある問題にぶつかります。それは,「タイピングしている時に手首がパソコンのエッジに当たって痛い」というものです。MacBook Pro (Late 2016)はそのスタイリッシュさ故にエッジがそこそこ立っており,数十分間集中してタイピングを一日数回繰り返し,それを数日繰り返していると集中力を阻害される程度には手首がヒリヒリしてきました。リストレストを調達してくればよいのでしょうが,財政的にあまり余裕がなかったのでタオルをいい感じに丸めてエッジ付近に配置することでリストレスト代わりにすることとしました。洗濯とかできるしこっちの方が望ましいんじゃないかな?(適当)

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エコノミーかつスピーディー,そしてクリーンでヴァーサタイルなソリューション

当日,自宅での決戦

 そんなこんなで迎えた試験当日,Practice Setは何とか4回分終えたものの単語帳もスピーキングも当初予定の半分も終わっていないガバガバ具合で当然心穏やかなはずがありません。ツイッターで散々発狂ツイートを撒き散らしつつもニコ動の松岡修造動画(ひたすら励ましてくる熱いやつ)でギリギリ正気を保ち,コーヒーを適量入れながら部屋を整理し,PCを立ち上げProctorU(試験監督システム)にログインし開始時間を待ちます。

 SHEでは開始時間を過ぎると,まずProctorUのスタッフとコミュニケーションを取りながらリモートデスクトップ権限を先方に付与し,リモート監視やチャット用のソフトウェアを入れたり,不正行為を防ぐための設定変更をしたりして受験環境を整えたり,身分証・本人確認やカメラを使っての部屋や机上の確認などを行ったりするという段取りになっています。通常はここまでで約20分らしいのですが,私の場合は再起動を何回も指示されたり試験監督との通信が途絶えたりして結局2時間ほど浪費してしまいました。先方曰く「MacなのにBoot Camp使ってWindows立ち上げてるのがよくない」とのことでしたが果たして…?

 そして,2時間も経つと問題になるのはお手洗いです。もともとReadingとListeningで2時間ほど使ってからいったん休憩があるという想定だったので,それに合わせて眠気覚ましのために摂取したコーヒーのカフェインがいい感じに回ってきてしまいました。本来SHEの試験実施中は席を立つと不正行為扱いとなる場合があるものですが,何とか試験開始前に試験監督に「トイレに行ってもいいですか?2時間経ってしまったので流石にちょっと」と英語で伝えて了承してもらうことに成功し事なきを得ました。この日で一番のファインプレーです(?)。

 ともかく,こんな感じで試験開始にたどり着くまでのトラブルが起こると面倒すぎるというのは会場受験と比べた時のSHEの大きなデメリットといえるでしょう。同期(他の専攻もTOEFL iBTを課しているところが複数あった)もSHEを受けた人はだいたい文句を垂れていました。

  問題自体はおおむね当たり問題という感じで,ReadingとListeningは選択肢で多少考え込みつつも何とか自信をもって正解を選べるものが大半という感じでした。トイレ休憩を挟んだSpeaking,案の定喋れねえ…。15秒とか30秒のシンキングタイムで数十秒間持続して英語を発せるような頭のつくりにはなっていません。なんなら会話を聞いてからそれをまとめて意見を話す問題あたりは,そもそも会話の内容の理解の時点で追いつかないところも多々ありました。大学内での会話を想定している設問はだいたいアメリカでのキャンパスライフに偏りまくった内容になっているので,我々みたいな極東の限界学生には無理があるんですよ(言い訳)。これでもまあTPOの15点は超えたかな…超えてほしいな…という感触でした。そしてその流れのままWritingへ,こちらも当たり問題,Integrated Task(長文を読んでからそれをまとめつつ意見を述べる設問)は書くべきことをまとめやすいし知っている表現で書ける内容だったし,Independent Task(「○○についてどう思いますか?」みたいな短い問いに理由をつけて意見を述べる設問)も自分の経験をいい感じにこじつけつつ,想定される反論も含めていい感じの論理展開を用意したりできました。時間内に十分な記述量をこしらえつつ文法ミスなどもある程度取り除けたので,「できた!」という感じで無事テストは終了。

結果発表ォ~!

 7月末某日。ETSのWebサイトでスコアを確認したところ,トータルで94/120(Reading:27 / Listening:26 / Speaking:16 / Writing:25)でした。Speakingは中学生かな?という出来ですが,それ以外はおおむね作戦成功という感じです。「スコアが低すぎてもう一回…」みたいな事態はとりあえず回避できました。ここから完全に専門科目対策オンリーの毎日のスタートです。

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燦然と輝く“Speaking 16”

 ちなみにこれは院試終了後に気づいたことですが,文科省が出している各資格・検定試験とCEFRとの対照表ではTOEFL iBTだと94までが「B2」で95以上が「C1」になるらしいですね。Bが「自立した言語使用者」でCが「熟達した言語使用者」に相当するらしく,1点差でかなり隔たりがあるようなポジションに陥ってしまいました。F*CK!!!!(ネイティブ並みの発音)

ja.wikipedia.org

 

[1] 工学部共通科目「創造的ものづくりプロジェクトⅠ」(2019年度Sセメスター)および「創造的ものづくりプロジェクトⅡ」(2019年度Aセメスター)の,「国際航空システムPBL」。ボーイング(前者)・エアバス(後者)の日本法人や本社・関連会社,エアラインの方による講義やグループワークなどが行われた。